もずの独り言・はてなスポーツ+物置

半蔵ともず、はてなでも独り言です。

奈穂子様番外編/有馬忠頼一件

f:id:Hanzoandmozu:20191207192535j:plain

ちょっと前に高松中将様(松平頼常)が小石川の水戸屋敷に里帰りしてな。

ま、水戸のジイサンと久しぶりの親子水入らずだったんだが、弥七のヤツが「中将様の土産だ」って、ごぼうの天ぷら持って来やがった。

ごぼうを一本まるまる天ぷらにするなんざ、讃岐人も大したモンよ。

麻由坊、何しに来たんだ?

ああもう帰えった帰えった。オレァな、これからこのごぼうのまるごと天ぷらを食うんだよ。

何?

玉ねぎの天ぷら持って来たから中務大輔様(有馬忠頼)の一件を話してくれろだ?

ん?

麻由坊、おめえ、その玉ねぎは胡麻油で揚げたのか?

そうか。じゃ、話してやるか。

中務大輔様は有馬玄蕃頭様(有馬豊氏)の息子でな。幼名が吉法師ってえんだ。ああそうだ。麻由坊の言う通りだ。吉法師ってえのは信長公の幼名とおんなじよ。

だからかも知れねえが、中務大輔様は乱暴者に成長しちまってな。これが恨みを買うもとになったのよ。

国許(久留米)で小姓が無礼をしたとかって言ってな、その小姓を城の柱にくくりつけた。で、何をトチ狂ったか中務大輔様は縛られて動けねえ小姓の御珍宝をちょん切っちまったんだ。ひでえことしやがるぜ。

御珍宝切られてぐったりしてるトコを弟が城から運び出してな。家に着いて事情を聴くと、本当にちょっとした、些細な落ち度だったってえ言うじゃねえか。

兄弟はワーワー泣いてな。「有馬中務大輔に報復してやる」ってな。それからよ、麻由坊。この兄弟が報復の機を狙って牙を研ぎ始めたのはな。

まあまずは兄貴の傷を治さなきゃってことで、兄貴の看病をしながら弟は中務大輔様殺害計画を練った。何せ御珍宝を斬り落とされたんだ。重傷ってことで計画をじっくり練る時間はあったってことよ。

傷が癒えると、また兄貴は小姓として城に出仕した。相変わらず中務大輔様の乱暴は続いててな。側室の飼い猫をいじめたとかで小姓がまた一人犠牲になった。

その小姓はな麻由坊、顔の皮をひっぺがされて久留米城下に放り投げられたのよ。

「もう、やるしかねえ」

兄弟はそう思った。

で、麻由坊、承応4年だ。

この年久留米藩は江戸へ参勤の年でな。確かあれァ3月20日のことだったな。江戸へ向かう船の中で事は起こったのよ。

朝、中務大輔様が盥に顔を浸けて洗顔してるトコに、御珍宝をちょん切られた小姓が「中務大輔、覚えたか!」って首斬り落としてな。

兄弟は中務大輔様の首を抱えてそのまま海へドボンと入水よ。

船ん中は大騒ぎになった。そりゃそうだ。顔洗ってた殿様が首もがれて死んじまったんだから。藩主の横死は即お取り潰しだ。

このお取り潰しの危機を救ったのが家老の岸刑部様よ。岸様は素早く藩主死亡を京都所司代の牧野様(牧野親成)に届け出た。「藩主・忠頼、船中で病死」ってな。

ここで岸様は「幕府よりの検屍を仰ぎたい」って敢えて牧野様に申し出た。敢えて「検屍してくれ」って言うことで「病死だ」って信じさせようとしたのよ。

牧野様は検屍を仰いだことで岸様を信用した。「検屍は無用。中務大輔どのの御遺体、久留米へ送り返すべし」ってな。

これで筑後久留米21万石は救われたんだ。岸様は名家老よ。

ま、これが中務大輔様一件だ。

ごぼうも玉ねぎも、胡麻油で揚げると素材の甘味がグッと引き出されるんだぜ。

麻由坊、またな。