もずの独り言・はてなスポーツ+物置

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いずみ江戸日記/大角与左衛門と佐々孫介-大坂城炎上-

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いずみサン、そりゃあ天ぷらうどんですかい?
何でえいずみサン、つゆに色がついてねえじゃねえか。
オレたち江戸っ子はつゆの黒いうどんじゃねえと食わねえぜ。
へ?
騙されたと思って食べてよって?
まあせっかくいずみサンが作ってくれたうどんだからな。
ああ、こいつァうめえ。
これが上方の天ぷらうどんですかい。



今日は何の話をすりゃあいいんですかい、いずみサン?
大角与左衛門
ああ、あの大坂城にいた賄い(料理人)のジジイのことですかい?
いずみサンは、やっぱちょっとそこいらの若いお嬢さんとは違うんだなァ。
いや別に、あんなジジイの話したって奉行所にゃしょっぴかれねえが、あんなジジイの話聴きたがるなんざ、いずみサンも変わってるぜ。
わかりやした。
じゃ、ちょいとお耳を拝借しやすぜいずみサン。



大角のジジイはな、もとは太閤の賄いだったんだがな、こいつァあんまし腕のよくねえ賄いだったもんで食材の下拵えばっかしやらされてたんだ。ま、この段階じゃ包丁持たせてもらえてねえってこった。
太閤が薨去なさると、賄いも代替りになってな。で、腕はよくねえけどいずみサンの時代でいう「年功序列」ってえヤツで大角のジジイは台所頭になった。台所頭は賄いの総大将だ。ジジイ、出世したじゃねえか。
このジジイがだ、いずみサン、もとは腕のよくねえ賄いなモンだから、賄いやめて武士になりてえって思い始めた。どうしようもねえジジイだ。
ありゃあ確か千姫様お輿入れンときだ、いずみサン。江戸の味に慣れてる千姫様が食いモンで苦労しねえようにって、幕府が佐々孫介ってえチビで色黒の賄いを付けて輿入れさせた。この色黒チビの賄いが「埋伏の毒」だったのよ、いずみサン。
いずみサン、佐々孫介ってえのは偽名だ。こいつの本名はいずみサンの時代にも伝わっちゃいねえ。ただないずみサン、こいつは熊本一揆で太閤に切腹させられた佐々内蔵助(佐々成政)の家のモンだ。こいつは佐々家潰した太閤を恨み続けて生きてきた。太閤が佐々家潰したばっかりにてめえは武士から賄いになっちまった。「オレァ本当は武士なのに」ってな。
この色黒チビに佐渡守様(本多正信)が目ェつけた。「こいつ使えるぞ」ってな。佐渡守様は色黒チビに「おいチビ、その賄いの腕で豊臣にやり返してやれよ」って言ってな。チビが賄いにそんなこと出来んのかって顔すると佐渡守様は「台所を調略するんだよ」って知恵つけた。
佐渡守様は「台所は食いモンも火も扱うんだ。毒飼いだって城燃やすんだって思いのままだろう」って調略の中身をチビに教えた。で、佐渡守様は「おまえは今日から佐々孫介ってえ名前にしろ」ってチビに名前まで付けた。チビは「オレは佐々の人間だ。豊臣にやり返してやるぜ」って大喜びしやがった。
孫介はさっそく調略出来そうな奴を探した。そうしたら大角のジジイが引っ掛かった。
孫介は「大角様がお望みならば、幕府の直参になれるよう本多様に掛け合います」ってジジイをその気にさせた。ジジイは大喜びで「いっそのこと、料理に毒混ぜちまうか」って言った。毒飼いしていいものか孫介が佐渡守様に下知を仰ぐと佐渡守様は「いや、毒飼いはするな。大角与左衛門には違うやり方で働いてもらう」って孫介に伝えた。
その「違うやり方」を夏の陣でやったのよ、いずみサン。
夏の陣は総濠埋め立てられちまって大坂城から討って出るしか無えからな。主だった武将連中はみんな城から討って出た。その手薄なところで孫介がジジイに「大角様、今です。今、台所から火を出すのです」って唆した。「大坂城が焼け落ちれば大角様の直参お取り立ては間違いございません」って念押しまでした。
ジジイは台所から火を出した。火はあっという間に大坂城全体に燃え広がった。孫介はジジイを唆してさっさと城から逃げ出した。孫介がその後どこに行ってどうなったかなんて誰も知らねえ。
夏の陣が終わると、ジジイはヘラヘラ笑いながら権現様に「大坂城はそれがしが焼きました。お約束の直参取り立てを」って頼んだ。いずみサンも知っての通り、権現様はこういう奴を一番嫌うんだ。権現様はジジイに「追って沙汰する」って言ったまんま放ったらかした。元よりこんなジジイを旗本になんざするつもりは無えから、そのまんま放ったらかした。
ジジイは直参お取り立ての返事を待ちながら病で死んだ。そのあと権現様も薨去なさった。
いずみサン、大坂城が焼け落ちて一番スッキリしたのはあの色黒チビの孫介かも知れねえな。



何の皮肉か、台所で滅んだ大坂が、今度ァ味で天下の台所になった。
うめえ天ぷらうどんだったぜ。
いずみサン、また。