もずの独り言・はてなスポーツ+物置

半蔵ともず、はてなでも独り言です。

奈穂子様/慶安事件

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いやあ~嬉しいねえ~。

何がって?

そりゃアンタ、雑煮の中にほらっ、かしわの肉がゴロンゴロン入ってるんだからよォ。

最近の奴ァ海老だの鯛だの入れやがっていけねえな。

ん?かしわ?

かしわってえのはアレよ、コケコッコーよ。

由比のおっさんのことですかい、奈穂子サン?

あのおっさんは、駿府で生まれた。

ま、はっきりわかってんのはそこまでだ。

百姓の子どもだとか染め物屋の息子だとかいろいろと話のあるおっさんなんだ。

で、ガキの頃に「オレぁ石田治部少輔の隠し子だ」って大法螺吹いて奉行所にしょっぴかれた。バカなガキだったんだな。

何とか親がペコペコ頭下げて放免してもらったが、しょうがねえお騒がせ小僧だったってワケだ。

このお騒がせ小僧がどういういきさつか知らねえが、楠木流兵法と武田流軍学の書物を手に入れた。

「ナントカに刃物」って言葉、あるだろう?

そんなもんだよ、コレは。

ま、大坂で太閤さんのセガレとおっかあをやっつけてからはいくさが無くなっちまったからなあ。

いくさが無くなるとお大名たちが「治にいて乱を忘れず」って言い出しやがった。カッコつけてえ生き物なんだよ、お大名ってのは。

それが由比のおっさんにとっては商売の土台になった。

由比のおっさんは江戸の牛込で「張孔堂」って軍学の塾を開いた。

こいつが当たった。

上は国持の家老から下は貧乏浪人まで、こぞっておっさんの塾に通ったんだ。

「張孔堂」の「張」は漢の張良から、「孔」はかの有名な諸葛孔明諸葛亮)から取ったってんだから胡散臭えことこのうえねえだろう、奈穂子サン?

でもよ、世の中何が当たるかわからねえもんでな。この「張孔堂」、そりゃもう大繁盛だった。

で、ここに出入りする浪人に金井半兵衛ってえのと槍の先生で丸橋忠弥ってえのがいた。

この金井ってえのが紀州様(徳川頼宣)と繋がっててな。こいつが由比のおっさんに幕府転覆を持ちかけた。「こんだけの人数がいりゃあ大丈夫だ」って。そこに槍の先生が乗って来た。槍の先生は、ホラ、アレだ、奈穂子サン、あいつだよあいつ、あのボンクラ大名の、いけねっ、名前が出てこねえ…

ああっ、思い出した!

長宗我部だよ長宗我部!長宗我部盛親セガレなんだよ。

てなワケでそりゃ当然槍の先生は幕府憎しだ。長宗我部盛親は大坂が落ちたあと打ち首にされちまったんだから。

金井のヤツが紀州様とつるんでやがるんで話はだんだん大きく危ねえほうに向かってったんだ。

まあ何せ「張孔堂」にゃ食い詰めた浪人連中がわんさかいるモンだから、「こりゃあひょっとしたら、ひょっとするんじゃねえか」ってヘンな夢見るようになっちまった。

そこへ来て、だ。奈穂子サン。紀州様が乗り気になっちまった。

もともと権現様(大御所家康)は台徳院様(秀忠将軍)をそんなに買っちゃあいなかった。

横手に流された本多様(正純)なんか、そりゃあしょっちゅうそこいらで言い触らしてたからな。

それで例のあの泣く子も黙る大炊頭(土井利勝)に取り潰された。

みんな薄々は感じてたんだ、権現様は台徳院様よりも紀州様のほうがかわいいってことをな。

紀州様だってそこんトコはよくわかっていなさるから、「江戸なんてクソくらえ、和歌山に幕府作ってやんぜ」って気になっちまった。

そこに金井のヤツと槍の先生が話に乗った。

由比のおっさんも「たった一度の人生よ、パッと花をさかせやしょう」なんて言い出しやがった。

「張孔堂」に出入りしてる浪人連中は「謀反がバレても、どうせこれ以上暮らしは悪くならねえよ」と由比のおっさんたちに同調しちまった。

紀州様はそれ知って大笑いだ。何せ紀州様は日頃から「オレが将軍なら浪人あのまま放ったらかさねえ。ちゃあんとメシ食えるようにしてやんぜ」って言ってたからな。

もし、紀州様が本気も本気で旗揚げすりゃあどうなるかわからなかったけどな。紀州様が本気になる前におっさんたちの企みを知恵伊豆(松平信綱)のダンナが潰しちまった。伊豆のダンナは奈穂子サンの時代の「すぱい」ってヤツを使った。

この「すぱい」が槍の先生から謀反の計画を聴き出した。槍の先生は真面目だったが酒やめらんなくて借金こさえてた。で、「すぱい」のヤツが借金取りに化けて槍の先生に話を聴いたんだ、「いつ返してくれるんだい?」ってな。そしたら槍の先生「近々謀反の報酬金が出るから、そこで全額スッパリ払ってやらあ」って言っちまった。「すぱい」はそのまま真っ直ぐ伊豆のダンナに御報告よ。

伊豆のダンナはまず金井のヤツと槍の先生をとっ捕まえた。次に由比のおっさんを駿府で見つけて腹ァ切らせた。おっさん、大人しく塾やってりゃあなあ…

で、最後に紀州様だ。

謀反の手紙が出て来たってんでお取り調べになったが、加納って若いのが隣の部屋で黙って腹切って死んだんだ。

そしたらお取り調べは打ち切りになった。

あ、餅がふやけちまう。

奈穂子サン、また。