もずの独り言・はてなスポーツ+物置

半蔵ともず、はてなでも独り言です。

奈穂子様/土井利勝

f:id:Hanzoandmozu:20191208181017j:plain

ああ、んめえっ!白いメシ粒に生卵!!

根深汁に大根の漬け物!!

しあわせだよ、しあわせ!!

奈穂子サン、何だって今日はそんなお人の話を聴きたがるんで?

まあ、話しちゃいけねえお人でもねえし。まあ、奈穂子サンのような若いお嬢さんが聴きたがるような話でもねえんだが…

わかりやした。お話ししやしょ。

土井大炊頭利勝様は、権現様(大御所家康)の「落とし胤」だ。おっと、「隠し子」なんて下世話は言っちゃいけねえよ。

権現様と葉佐田則勝ってえ人の娘さんとの間に出来たんだが、権現様の御正室の築山サンってえのが奈穂子サンの時代で言う「ひすてりい」ってヤツだったんでさあ。

で、この「ひすてりい」の御正室が身ごもった葉佐田の娘を腹ン中の赤子もろとも殺そうとしやがった。

で、「こいつはヤバい」ってんで葉佐田の娘を身ごもったまんま土井利昌ってえ家臣に押し付けた。

それで葉佐田の娘は土井家で男の子を生んだ。

その子の名前は権現様がお付けになった。

松千代ってえ名前にしたんでさあ。「松の木のように縁起のいいセガレになりやがれ」ってな。

権現様はよっぽどこの子がかわいかったんだろ。で、この松千代坊ちゃんを台徳院様(秀忠将軍)の小姓にしなすった。名乗りも土井甚三郎ってお侍らしい名乗りになった。

台徳院様と甚三郎坊ちゃんの歳の差は7つ。まあ、台徳院様から見たら親しみやすい兄貴だったんじゃねえのかな。

そうこうしてるうちに甚三郎坊ちゃんに権現様が脇差をお与えになられた。で、みんな気付くってえワケだ。「甚三郎どののててごは権現様か」ってな。

腹ン中にいたときに、もうヨソの家の子として生きなきゃならなかった。屈折しちまったんだな、きっと。脇差もらって遠まわしに「おまえは落とし胤」って言われたって、こころン中ァぽっかり穴が空いたまんまだ。

甚三郎坊ちゃんは土井家を継いで土井利勝になった。泣く子も黙る大炊頭の登場ってえワケだ。

奈穂子サン、「大炊頭」って、ちゃんと読めるかい?こいつは「おおいのかみ」って読むんだ。覚えといてくんな。

台徳院様と大炊頭様は二人三脚。こいつは台徳院様が死ぬまで続いた。台徳院様はそりゃあいっぱい大名を取り潰した。大炊頭様と二人三脚でな。家門と言わず譜代と言わず、外様は無論のこと、ずっと震えてた。「明日は我が身だ」ってな。

大炊頭様がどんだけ怖がられてたか、こいつは仙台の中納言様(伊達政宗)から聴いたんだがな、ある日御城(江戸城)で大炊頭様が誰か大名とすれ違った。そしたらそいつが「大炊頭様のお髭の生えた顔は、権現様にそっくりだ」なんて言いやがった。それ聴いて大炊頭様はすぐさま髭を剃っちまった。「恐れ多い」ってな。で、こっからだ、奈穂子サン。大炊頭様が髭剃ったのを見て、諸大名はみーんな髭剃っちまいやがった。「髭生やしてたら睨まれてお取り潰しだ」ってな。

何より大炊頭様のおっかねえトコを見せつけたのが駿河様(徳川忠長)の御生害よ。取り潰して上州高崎に閉じ込めた後、阿部対馬様(重次)を高崎に行かせた。対馬様は高崎で駿河様に何やら一言二言喋ってすぐ帰っちまった。で、対馬様が帰ったあとに女中が熱燗持って部屋に入ってびっくり仰天よ。駿河様は畳の隙間に太刀を立てて、そこに自分の首刺し貫いて死んじまった。対馬様が何喋ったなんて、誰も知らねえ。ただ、大猷院様(家光将軍)に殉死してるとこを見ると、相当なことがあったんじゃねえのかな、と。

これが大炊頭様の「泣く子も黙る」に箔を付けた。ありゃあ知恵伊豆(松平信綱)のダンナよりも格段にうわ手だぜ。

そりゃそうだ。大炊頭様は台徳院様から「我が家の諸葛孔明諸葛亮)だ」なんて言われたお人だぜ。由比のおっさんみてえな「自称諸葛孔明」とは月とすっぽんよ。

あの紀州様(徳川頼宣)でさえ、呼び捨てしねえで「大炊どの」って呼んでたくれえだからな。ま、アレだ、おっかねえオヤジの一人でもいねえと、幕府ってえのはやっていけねえモンなのかな。

大炊頭様がしあわせだったかどうか?

そいつぁオレにゃあ何とも言えねえな。

執政職(大老)って言ったって、徳川はおろか松平さえも名乗れなかったしなぁ。石高だってたったの16万石だ。「三代の名相」なんて世間で呼ばれても、たったの16万石よ。

ただな、大炊頭様が台徳院様のもとで辣腕振るえたのは事実だし、言葉を選ばなければ「好き勝手」に幕府を仕切った。

それ考えたら収支トントン栗きんとんだったんじゃねえのかな、大炊頭様は。

あ、そうそう。雪の模様に「大炊模様」ってあんだろ?あれァな、大炊頭様の子孫の利位様の頃に作られた模様なんだよ。土井家は代々大炊頭を名乗ったんだ。

ネギはまっすぐ切らねえと、味噌汁辛くなっちまうぜ。

奈穂子サン、また。