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奈穂子様/截蜻蛉-頼 山陽と本多忠勝-

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へえ、いい若えモンが寄ってたかって肉を食うのを「ばあべきゅう」っていうんですかい?奈穂子サン?

大多喜ですかい。

上総大多喜10万石は権現様の関東御討ち入りのときに本多平八郎忠勝様に与えられたんでさあ。

駿州遠州草皆腥し。

北軍人を殺して勢い建令。

一騎殿後して萬騎却く。

馬上の梨花蜻蛉を截る。

蜻蛉の州君が為に截る。

佳名兆を開く一丈の鐵。

北軍の鋒何ぞ折るに足らむ。

これは頼 山陽先生の「截蜻蛉」(とんぼきり)ってえ楽府詩(がふし)で、平八郎様のことを読んだ詩だ。平八郎様の槍の名前が「とんぼ切り」だった。だから詩の名前も「截蜻蛉」にしたんだ。

楽府詩ってえのはな奈穂子サン、音楽に合わせて口にする漢詩のことで、だから一行ごとの文字数が揃わねえんだ。でもよ奈穂子サン、山陽先生の楽府詩は本当に胸にジーンと来たり、ワクワクしたりする詩がいっぱいあるんだよ。

山陽先生は生前に『日本楽府』ってえ本を出版した。66の楽府詩を収めた本なんだがな、この本に「截蜻蛉」は最初収めるはずだったんだ。そしたらな奈穂子サン、出版前に検閲したヤクニンが底意地の悪いヤツでな。「当代に障る」ってえ言い出しやがって、「削れ」って山陽先生に言いやがった。

他にも「削れ」って言われた詩がいくつもあって、それを削って新しく書いた詩を加えて66の詩を収めた。

奈穂子サンの時代とオレたちの時代の決定的な違いはな、オレたちの時代には「表現の自由」が無かったってトコだ。

山陽先生の『日本楽府』はな、ヤマトタケルから太閤さんの朝鮮出兵までを66の詩でまとめたんだ。でもよ、本当はヤマトタケルからこの「截蜻蛉」までで66詩だったんだ。つまりは、オレたちの時代から10詩くらい作ったんだが、底意地悪いヤクニンが「削れ」って言って削らせた。

だからこの「截蜻蛉」の詩は山陽先生の生前は陽の目を見るこたァ無かった。だからこの詩は奈穂子サンへの「さーびす」だ。

幕府にとって都合の悪い書物は、みんな片っ端から「当代に障る」って言って発禁にした。これがオレたちの時代の「本の事情」なんだよ、奈穂子サン。覚えといてくんな。

さ、じゃ、晩メシの前に奈穂子サンにこの詩の注釈しとかねえとな。

この詩はな、長久手の戦いのときの平八郎様の活躍を楽府詩にしたんでさあ。

駿河遠江北軍(羽柴軍)が人殺しをしてる。そこに名槍「とんぼ切り」を携えた平八郎様が勇敢に戦う。そのサマを山陽先生は「佳名兆を開く一丈の鐵」って一行でまとめなすった。オレァシビレたぜ。で、結びの一行で羽柴軍の槍なんてわざわざへし折るほどのもんじゃねえってな。

へ?

何で槍の名前が「とんぼ切り」かって?

平八郎様の槍先は鋭さ抜群でな。あるときいくさ場で槍先にとんぼが止まったんだが、止まった瞬間とんぼが真っ二つに切れやがった。だから「とんぼ切り」っていうのよ。

オレの晩メシはさんまの塩焼きだ。

奈穂子サン、また。