もずの独り言・はてなスポーツ+物置

半蔵ともず、はてなでも独り言です。

奈穂子様/平賀源内

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夏ァやっぱりそうめんだァな。

薬味は紫蘇と茗荷だ。

こいつをズルズルッとやって涼しくなるのよ。

「そいつはならねえ平賀先生」

オレァそう言って先生を止めたんだがな。

先生があの騒ぎをしでかす前の晩のこった。オレの長屋に先生が来た。

平賀先生はあの晩、うなぎの蒲焼きに徳利一つ持って来てな。長屋に来たときにゃ、もうとっくに出来上がっていた。

「先生、どうしたんだい?そんなヘベレケになっちまって」そう聴いたらな、先生いきなり怒鳴り出した。「あいつらにオレの気持ちがわかるか」てな。

平賀先生は高松藩に仕えてたんだがな、どうも平賀先生には宮仕えが向かなかったみてえでな。高松藩を致仕して江戸に出て来た。

江戸で田沼のオッサンの眼に止まってな。田沼のオッサンは先生をえらく気に入ってな、幕府のゼニで長崎に行かせたりもした。

平賀先生はな、江戸で博物学の大家(たいか)になりたかったんだ。それにはゼニがかかる。で、そのゼニを作るのに物書きやら「えれきてる」やらでゼニを集めたんだがな、そんなんじゃ追っつかねえくれえゼニがかかる。

田沼のオッサンは平賀先生の夢にまではゼニ出しちゃくれねえ。先生はだんだん本当にやりたかったことと実際にやってることのズレが大きくなることにくたびれちまった。

何とかしてえ、何とかしなきゃなんねえ。先生は先生なりに焦った。そこへ、先生のお弟子さんの久五郎ってのがな「先生、そろそろまっとうに生きて下さい」って言いやがった。

間が悪いってえのかな。久五郎の言ってるこたァ正しいんだがな。正しいんだがよ、奈穂子サンの時代でいう「たいみんぐ」ってヤツがちょいと悪かった。

「あの野郎、余計なことを」先生そう言って腹ァ立てた。「叩っ斬ってやる」ってな。先生は先生なりに「何とかしなきゃならねえ」って、焦って、もがいて、苦しんでた。

そこへ、久五郎の一言だ。あの晩先生は「あの弟子を斬る」って意気巻いてな。研ぎ立ての太刀をギラリと抜いた。オレァそれを見て「そいつはならねえ平賀先生」って止めたんだがな。ダメだった。

次の日、平賀先生は久五郎を神田の家に呼びつけてな。研ぎ立ての太刀で久五郎を兜割りよ。久五郎の傷は脳味噌まで届くくらい深かった。だから久五郎はその日のうちに死んだ。

平賀先生は奉行所にしょっ引かれて伝馬町の牢屋で病気で死んだ。口の悪いのが「平賀源内は頭がイカレて牢屋の中で自害した」なんて言いやがるが、あれは自害じゃ無くて病死だ。

田沼のオッサンは平賀先生にてめえの姿を見たんだろうぜ。田沼のオッサンは家柄の無えところから次席老中、平賀先生も家柄の無えところから何とか博物学の大家にってところが似通ってたからな。

土用の丑の日

こいつは田沼のオッサンと平賀先生が仕掛け人だ。だからよ、うなぎを見ると、いつも平賀先生を思い出すのよ。

そうめんの薬味に炒り卵ってえのもイケるんだぜ。

奈穂子サン、また。