もずの独り言・はてなスポーツ+物置

半蔵ともず、はてなでも独り言です。

奈穂子様/酒井忠能

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こいつは変わったどら焼きだな、奈穂子サン?

駿河田中でこのどら焼きが作られてるんですかい。

さっきっから弥七がこのどら焼きを3つも4つも食ってやがる。まあな、どら焼きに新茶の粉が練り込んであるなんて、甘党の弥七にゃあたまらねえんだろうな。

ああそうか。

奈穂子サンの時代じゃ田中は藤枝ってえ呼ぶのか。

酒井日向守忠能様。

高輪の御大老酒井忠清)の弟よ。

はじめは兄貴(前橋藩)の近く(那波藩)に領地を持ってたんだがな、兄貴の顔で加増されて信濃小諸に国替になってな。

で、小諸でやらかすんだ。トンチキをな。

ちょうどこの頃、小諸では農業用の用水路の整備が出来てな。だから小諸は石高が伸びた。

収穫が増えりゃあ、そりゃあそれだけで満足なんだがな。ところが日向守様は「もっと搾り取ってやれ」と検地を繰り返したのよ。

検地だけじゃねえぜ。家、床、窓、家畜とあらゆる物に運上(税金)をかけた。とんでもねえトンチキお大名だ。

小諸の領民は耐えられなくなってな。そンでとうとう一揆を起こした。一揆の連中は江戸に出て来て日向守様の苛政を直訴した。

直訴はしたんだがな奈穂子サン、ちょうどこの頃は高輪の御大老が並ぶ者無しってえくらいに権勢を誇っていた時期でな。

大老一揆の訴えを退けた。てめえの弟のことたがらな。握り潰したのよ。ただまあ、バツ悪かったんだろうな。御大老は日向守様を駿河田中に国替にした。

駿河田中でも日向守様は年貢を重くしたり運上をかけたりした。何せ兄貴が並ぶ者無き酒井雅楽頭様だからな。やりたい放題だったってえワケよ。

ところがだ奈穂子サン、家綱公が死んじまって事情が変わったんだ。

館林から来た綱吉公はな、高輪の御大老を罷免したのよ。「将軍より偉い大老なんていらねえ」ってな。

大老は罷免の翌年に槍で胸を突いて自害した。お大名の自害はお取り潰しだ。綱吉公は御大老は自害したんじゃねえのかって噂を聞いて検屍役を酒井屋敷に差し向けた。

オロク(遺体)を見られたら上野前橋15万石はお取り潰しよ。だから日向守様は必死になって検屍役のヤクニンを玄関で押し留めた。

門前払いのヤクニンは一部始終を綱吉公に御報告よ。そしたら綱吉公は「何としてでもオロクを検分して来い」ってえれえ剣幕で怒鳴ってな。そンでヤクニンはもう一度酒井屋敷に行ったんだが御大老のオロクは荼毘に伏されたあとだった。

「日向守のヤツ、邪魔しやがって!」綱吉公は大怒りでな。結局骨になっちまったオロクからじゃ自害の証拠は出て来ねえ。だから綱吉公は前橋藩取り潰しは諦めた。

諦める代わりに、日向守様の駿河田中4万石を取り潰した。そンで日向守様は彦根藩にお預けになったのよ。

兄貴の御威光笠に着て好き勝手やった4万石のトンチキお殿様もこれで年貢の納め時だ。

さっきオレも弥七に例のどら焼き分けてもらったんだがな、茶の味のするどら焼きも悪かねえなって。

田中(藤枝)の人も面白えモン作りやがるぜ。

奈穂子サン、また。