もずの独り言・はてなスポーツ+物置

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奈穂子様/徳川忠長

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今日はな、駿府から茶が届いたってんで水戸のジイサンが弥七に茶と栗きんとん持たせて来やがった。

栗きんとんなんざ手間かかってしょうがねえのにな。

水戸のジイサン、隠居してからすっかり暇になっちまったんだな。

駿府ってえと、いっつもあのお方を思い出しちまう。

駿河大納言様(徳川忠長)のことよ。

一言で言やあ「まざこん」ってえヤツだった。

たいてい、お武家様の子供は乳母が乳をやって傳役が育てるから「まざこん」になりようがねえんだがな。ただまあ、駿河様の場合はお江様がてめえで乳をやっててめえで育てなすった。

だから「まざこん」の上にワガママボウズになっちまった。もっとも、こいつは秀忠公にも責任あるぜ。何せ秀忠公は家光公より駿河様を気に入っていなすったからな。

ま、オヤジとオフクロが甘やかした息子なんてロクなのにならねえ。駿河様は何でも彼でもてめえのモンにならねえと気が済まねえワガママボウズになっちまった。

権現様は生前、春日のバアサンから家光公と駿河様についてあれこれ聞いてたみてえでな。だから権現様はお江様に「長男信康は私が甘やかしたばかりに最期は信長公によって切腹させられた。この苦い経験から、そなたには“子供を甘やかすな”と伝えておく」ってえ手紙を書いた。

お江様は手紙を読んだんだがな、それでも駿河様を甘やかし続けた。「戦国も終わって、まさかかわいい忠長が切腹なんて」って甘く見た。

駿河様はワガママボウズに成長しちまった。駿河様はあろうことか秀忠公に「百万石か大坂城をくれ」ってせがんだ。とんでもねえ話だ。ワガママボウズがオヤジを強請ったんだ。どうしようもねえトンチキ坊やだぜ。

ここからだ、奈穂子サン。秀忠公が駿河様に冷たくなるのは。秀忠公は「かわいさのあまり甘やかし過ぎた。オレが間違ってた」ってな。そんなトコに駿河様はとんでもねえことをしでかしちまう。

駿河様が領地の視察に出たときのことよ。ちょうど雨降りで肌寒い日だったんだ。

民家を借りて休息を取ろうってことになって、民家を借りた。そこで側近の小浜七之助ってえ真面目が取り柄の若侍が「殿のからだが冷えるといけねえ」って火を起こして汁物をつくろうとしたのよ。偉いじゃねえか。

ところがだ奈穂子サン、七之助のヤツが火をおこそうと火吹き竹をくわえて首を伸ばしたその瞬間にだ、駿河様はいきなり刀を抜いて七之助の首を落としたんだ。

こんなの、気違いの所業だ。当然小浜家からは苦情が出た。苦情を受けた御大老土井利勝)は「もう我慢ならねえ」って駿河府中50万石をお取り潰しにした。もちろんこれは秀忠公の「ごーさいん」があってのことよ。

取り潰しまでは秀忠公の御命令だったんだがな、秀忠公はその後のことを決めずにポックリ逝っちまった。そンで家光公は御大老と相談した。

あれァ師走のことだったな。高崎で幽閉されてる駿河様のもとに対馬守様(阿部重次)が訪れなすった。対馬守様は、駿河様とほんの一時話をしてな。何を話したかはオレにも水戸のジイサンにもわからねえ。

対馬守様が部屋を出たあとのことだ。駿河様は女中に「酒持って来い。熱燗でな」ってお命じになった。師走の寒い日に熱燗にするんだ。そりゃあ時間がかかる。で、女中が熱燗持って部屋の襖を開けたらな、駿河様は太刀で首を刺し貫いて御生害ってえワケよ。

こいつは御大老対馬守様に「駿河様に死んでもらうよう言って来い」って命じたモンだ。対馬守様はこれをえれえ苦にしてな。とうとうこれを理由に家光公に殉死したのよ。

茶はな、心を落ち着かせるのに持って来いなんだ。

駿河様も酒ばっかり飲んでねえで、茶を一服飲んでりゃあもっとましな一生だったんじゃねえのかな。

ま、今日は栗きんとん、明日は甘納豆で弥七の甘党にお付き合いよ。

奈穂子サン、また。