もずの独り言・はてなスポーツ+物置

半蔵ともず、はてなでも独り言です。

奈穂子様番外編/松平忠直と一国御前

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今日はな、水戸のジイサンからの貰い物のしらすがあるんだ。

こいつを生のまんま、しょうゆをかけて食うのよ。

つまみに良し、おかずに良しだ。

何だオイ麻由坊。

ああダメだダメだ。

この生しらすは誰にもやらねえよ。

あ?

何だって!?

越前屋で買ったあなごの白焼き分けてあげるからそのしらす分けてくれだ?

そうか。

あなごか。

じゃ、分けてやるよ。

で、今日はちゃんと「りくえすと」に答えろだ?

しょうがねえなあ。

麻由坊、おめえ、そんなにイカレポンチのトンチキお大名の話が聴きてえのか。

じゃ、今日は話してやるよ。

越前宰相様(松平忠直)の側室におむにってえイカレたお姉ちゃんがいた。

正真正銘の気狂いでな。よくもまあこんなのが世の中にいたモンだって違う意味で感心すらあ。

このおむにってえのはな、もとは美濃(いまの岐阜県)あたりで団子売りしてたんだけどな、大坂の陣から帰国する道中の忠直様に見初められて一緒に福井に入った。

ま、よっぽどのいいオンナだったんだろうぜ。忠直様はすぐさまこのキチガイ女を側室にしたのよ。しかもだ麻由坊、忠直様は「こいつァ越前一国と引き換えにしてもいいくらいのい~いオンナだ」ってんでおむにに「一国御前」なんて称号まで与えたのよ。

ここからだ、麻由坊。このおむにのトンチキぶりが遺憾なく発揮されんのはな。

このキチガイ女はな、人が死ぬのを見て気持ち良くなるっていうイカレポンチだった。麻由坊の時代でいう「変質者」ってえヤツだな。

忠直様はこのお気に入りのキチガイ女を喜ばすためにありとあらゆる方法で人殺しをした。

まず手始めは何の罪も無え福井藩士を天守閣から突き落として殺した。そいつは頭がぐちゃぐちゃに砕けて死んだんだが、そのぐちゃぐちゃに砕けた頭を見ておむには大喜びだ。

次はまた罪の無え藩士を逆さ吊りにしてあんこうみてえに斬り刻んでな。で、忠直様は「ここが肺腑、ここが心の臓」っておむにに解釈しやがるんだ。剥き出しの臓腑を見てまたおむには喜ぶんだ。

そしたら今度はおむにからの「りくえすと」よ。このキチガイ女はな、「私、妊婦の腹裂きが見たい」ってえ言い出した。妊婦の腹裂きだけァやっちゃいけねえ。そいつをやった信玄入道の親父(武田信虎)は家臣からも領民からも見放されて甲斐から追放された。

忠直様は愛するキチガイ女のために福井藩領内の妊婦を城に連れて来て腹裂きをやった。腹から胎児を取り出すとおむにのヤツは大喜びで忠直様に「嬉しい」って抱きついた。ったく、反吐が出らあな。

これを知った忠直様の正室の勝姫様は仙千代様(のちの松平光長)を連れて実家に帰えっちまった。

実家に帰えった勝姫様は親父の秀忠公に「うちの主人は発狂乱心」って訴えた。

発狂乱心は例外無くお取り潰しよ。忠直様はお取り潰しのうえ身柄を豊後(いまの大分県)に移された。で、肝心のおむにはってえとお取り潰しが決まった途端に姿を消した。どうしようも無えトンチキ御前だぜ。

ま、これで忠直様の言った通り、おむには越前一国と引き換えにしたってえワケだ。忠直様もおむになんかと出会わなければ四代将軍の目はあったかも知れねえのにな。

さ、麻由坊、もう遅いからそこまで送ってってやる。

夜更かしなんかするとおむにみてえなイカレポンチになっちまうから、早寝するんだぞ。

麻由坊、またな。