もずの独り言・はてなスポーツ+物置

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奈穂子様番外編/内藤政義一件

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はまぐりとねぎを鍋で煮立ててな。

こいつを肴に辛口の熱燗をキュッとやるのよ。

冬はねぎが甘いからな。はまぐりと相性抜群よ。

「みすてりあす」?

麻由坊、おめえ、どこでそんな言葉覚えたんでえ?

頭の固まらねえうちから南蛮かぶれすると、ロクなオトナになんねえぞ。

「みすてりあす」って言やあ、アレだな。内藤のお殿様の一件だァな。

あれァ確か嘉永2年の夏のこった。

日向延岡7万石の内藤能登守政義様がこの世からフッと消えたのよ。

おい麻由坊、手品じゃねえぞ。神隠しだぞ。神隠しは子供が消えるモンなんだがな、何故か能登守様が消えちまった。

この年、能登守様は参勤明けでな。延岡へ御帰国の年だった。

麻由坊、おまえにもこのくらいはわかるだろうが、江戸から延岡は船で行くんだ。で、事件はこの船ン中で起こった。

能登守様と御家来衆はもとより、乗船してた連中みんなこの世から消えちまったんだ。それに家財道具から何から、全部消えちまった。

しばらく経ってから無人の船二艘が延岡に漂着した。延岡藩は、そりゃあもう驚天動地の大騒ぎよ。

何せ船には誰もいねえんだ。で、船のあちこち、至るところに血糊がべっとり付いてやがるのよ。

延岡藩の家老連中は「殿は殺された」って直感した。そりゃ、あの船の様子だけ見りゃあ誰だってそう思うわな。

延岡藩としちゃあ、上手いこと幕府をダマくらかさなきゃなんねえ。藩主横死はお取り潰しだ。

そこでだ麻由坊、延岡藩能登守様の御実兄の掃部頭様(井伊直弼)に手ェ回してな。「藩主・政義は延岡到着後に重病人になってしまったので、今後は療養させるため延岡に留め置きます」ってな。

掃部頭様は実の弟のことだから、「わかった。良きに計らえ」って言った。で、このあとは養子の寛次郎様が能登守様に代わって参勤交代するようになるのよ。

でもよ麻由坊、実ァな、幕府はすでに能登守様の異変を知ってやがったんだ。しかも下手人はエゲレス船だってことまでつかんでやがった。

まァアレだ麻由坊。

日向延岡7万石自体は大したこたァ無ねえが、能登守様の御実兄が掃部頭様ってトコにこの話のミソがある。天下の御大老の御実弟が横死で改易なんざァ目ェ当てらんねえだろ。

だから能登守様は重病人ってことにして一件落着させたのよ。

このあと御一新があって、内藤家は子爵に叙せられるんだがな。ここでもう一つの「みすてりあす」があるのよ。

それがな麻由坊、おっ死んだはずの能登守様の肖像画が描かれてるのよ。こいつァたまげたぜ。

内藤家が何でこんな真似したのかはオレにもわからねえ。内藤家の中から能登守様に歳の近いのを選んで「もでる」にしたんだろうが、世の中はもう御一新のあとだ。取り潰しもへったくれも無え世の中になってるのにな。

「みすてりあす」はお江戸の時代にもあったのよ。

おい麻由坊、千歳飴ばっかしかじってると虫歯になっちまうぞ。

麻由坊、またな。